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廃プラからガソリン等の軽質油を作り出すはずだった日本理化学研究所のその後

日本理化学研究所が開発した、クラタ式油化還元装置という廃プラを一瞬にして灯油にしてしまう装置について調べてみた。

背景

この装置を知ったきっかけは、「トンデモ本の世界R(と学会)」だ。同P140にて紹介のある「水を油に変える技術(倉田大嗣 )」には、電磁波を用いて低温でプラスチックを分解でき、プラスチックを投入してから3秒で精製済み灯油が出てくる倉田式廃プラ油化還元装置について書かれているそうだ。この装置は安来市からの廃プラを毎日15トン処理しているという。

しかし、だ。なんか、最初から最後までおかしい気がする。

1. 電磁波を用いて低温でプラスチックを分解することは可能かもしれない。しかし、プラスチックの分子を軽油程度の分子にまで分解するためには断ち切ったプラスチック分子の端っこに水素原子等を付ける必要がある。この水素はプラスチックの外から供給する必要があるため、反応はプラスチック塊の表面から始まるはずだ。そのため、3秒なんて超高速反応をするにはプラスチックを粉末にする必要がある。しかし、同書いわく「ポリ袋に入ったままのゴミ」でいいらしい。マジ?

2. 廃プラには着色料等の不純物が混じっている。これらは塩素や硫黄などの原子を含んでいるため、油化する際には除去し、別途廃棄する必要がある。しかし、開発者によるとそのようなものは出ないらしい。マジ?

3. 安来市からの廃プラを毎日15トン処理する、とあるが安来市の人口は4万人弱。毎日、一人あたり400gものプラスチックを捨てている計算になる。マジ?

そこで、この装置の実態を調べてみた。

調査結果

本装置の導入日時やウリは、戸田市議会 平成7年3月定例会(第2回)の山崎卓美議員発言や、前橋市議会 平成5年第3回定例会(第3日目)の浦野紘一議員発言、野田市議会 平成7年3月定例会の戸辺栄一議員発言に詳しい。また水を燃やす技術(倉田大嗣)によると、本装置を開発した日本理化学研究所は倒産したが、現在は日本量子波動科学研究所として復活している。そして平成23年(ワ)第15033号 保証金返還等請求事件に装置の実態が書かれていた。大阪等に導入された装置の顛末や装置の課題については、出典不明だがダイオキシン関西ネット/第28号にある。以下、実態及び時系列についてまとめる。カッコ内は参考文献。

・実態

  • 3cm角大に砕いたプラスチック片を装置に投入すると、3秒~10秒程度で精製された灯油が出てくる(3秒:安来市戸田市議会議事録)(10秒:’93廃棄物処理展、前橋市議会議事録)。上記にように第3者による報告でも粉末にはしていないが、袋に入ったまま投入するわけではない。
  • 5種類の金属触媒と反応促進剤を用いて、 200度から 250度の低温で化学反応させ、冷却する。(前橋市議会議事録)
  • 出てくる灯油は熱い。(水を燃やす技術)ただし、反応炉内の油温は上がっていない。反応炉内に固形物は残っていない。(野田市議会議事録)
  • 反応剤、触媒などの費用は、廃プラスチック類1キログラムに対し7円から8円。他技術の1/10~1/100。(前橋市議会議事録)
  • 委託処理費用は1立米当たり3,500円。安来市の埋立処分地費用は1立米1万8,000円から2万円であるため、およそ1/5の費用となる。(野田市議会議事録)
  • 1キログラムの廃プラスチックから1.2リットルの灯油に還元。(前橋市議会議事録)なお、灯油の密度を0.8kg/lとすると1.2リットルの灯油は0.96kg。反応剤や触媒由来の炭素が無いならば、プラスチックの殆どが灯油になったことになる。
  • ガスおよび残渣が発生するが、密封循環式のため適切に処理可能。(前橋市議会議事録)
  • 安来市における平成2年の埋立処分量は386トン/月。一方、平成3年11月~平成5年8月の埋立処分量は17.7トン。(前橋市議会議事録)ただし、平成2年の埋立処分量は分別前のためプラスチック以外の全ての不燃ごみを含む。一方、平成3年11月以降は陶磁器・ゴム製品・電球・灰のみと思われる。前橋市議会議事録では油化還元により埋立量95.4%削減できたように読めるが、分別の効果も含まれていることに注意。なお、戸田市議会議事録では明らかに上記間違い(油化により95%削減)をしている。
  • プラスチックごみは、人口1万人あたり毎月1トン(戸田市議会議事録)。そのため、人口33,000人の安来市前橋市議会議事録)におけるプラスチックごみは3.3トン/月程度と思われる。すなわち、一日あたり110kg。1号機の時間あたり処理能力は不明だが、2号機は10kg/時(水を燃やす技術)。そのため、「毎日15トン処理している」はおそらく誤り。2桁ほど単位を過大に間違えた可能性がある。
  • 装置改造に関する消防認可にてトラブル。(水を燃やす技術)
  • ごみ処理業者とトラブル(水を燃やす技術)。ごみ処理業者が装置納入先の上幹総業か、他の業者かは不明。
  • 装置停止時に発生する塩素により配管に穴が開く。特殊金属製のため交換費用は5000万円。(ダイオキシン関西ネット)
  • 後継機はミニZ-Ⅱ。重油,廃油,廃プラスチック等を軽質油に変換できる。少なくとも、以下の発明が関与。特開2006-328338、特開2006-334505、特許第4129076号、特開2008-271996が関与。ただしこれら発明の権利は中国企業に譲渡済み。(平成23年(ワ)第15033号保証金返還等請求事件)
  • TBS「ニュースの森」、週刊朝日「夢のリサイクル装置のカラクリ」にてインチキと報じられる。
  • 特許は商品化してから(水を油に変える技術)。既に商品化しているのに特許を取らない理由は不明。
  • 論文は、学会の理解を得る時間がもったいないから書かない。(水を油に変える技術)
  • 信用できないからといって原理、理論を公表するつもりはない。(水を油に変える技術)

最後の3点がどうにもインチキっぽいんだよなあ。大抵の技術系詐欺はこの3点をセットにしてくる。数値の過大申告も詐欺系にありがち。また誤解を招く数値も詐欺でよくある。スリーアウトだよなあ、これ。

・時系列

  • 平成2年、安来市の埋立処分量は386トン/月。(前橋市議会議事録)
  • 平成3年7月、島根県松江市の上幹総業に第1号プラントを導入。(前橋市議会議事録)
  • 平成3年11月、安来市にて埋立処分場の無届け処理が発覚。(前橋市議会議事録)
  • 平成3年11月、安来市不燃ごみを1. プラスチックごみ、2. 陶磁器・ゴム製品・電球・灰、3.アルミ類、4. 空びん・ガラス等の4種に分別して回収開始。(戸田市議会議事録)
  • 平成3年11月?安来市はプラスチックごみの軽油化を上幹総業に依頼?
  • 平成5年5月、東京晴海の「'93廃棄物処理展」に出品。(戸田市議会議事録)
  • 平成5年9月、安来市の埋立処分量は平成3年11月~平成5年8月の平均で17.7トン/月。(前橋市議会議事録)
  • 平成6年6月?大阪市のジオメイク社に油化装置を納入(予定)。(地球を救う21世紀の超技術)
  • 平成6年?安来市は上幹総業との軽油化事業を中断。(水を燃やす技術)
  • 平成8年8月、週刊朝日に装置の暴露記事が掲載される。(水を燃やす技術)
  • 平成9年11月、日本理化学研究所名義の最後の出願。翌年5月の出願では会社名無し。この間に日本理化学研究所は倒産した模様。(特許庁
  • 平成10年秋、ジオメイク社は油化を断念。(ダイオキシン関西ネット)
  • 平成16年6月、倉田氏は日本量子波動科学研究所を創業し会長に就任。(人工光型植物工場・植物工場 index
  • 平成16年12月、倉田氏は株式会社Sun風の取締役に就任。(平成23年(ワ)第15033号保証金返還等請求事件)
  • 平成23年5月、倉田氏は死亡。(平成23年(ワ)第15033号保証金返還等請求事件)
  • 平成24年11月、日本量子波動科学研究所は油化還元装置(ミニZ-Ⅱ)を完成できず株式会社ニュー・テクノロジーとの訴訟に敗訴。4億5000万円の支払いを命じられる。(平成23年(ワ)第15033号保証金返還等請求事件)

倉田氏、亡くなっていたとは。ご冥福をお祈りします。